賃貸マンションでの大規模修繕工事の流れ
賃貸マンションを長く高入居率に保ち、資産価値の高い物件として維持するためには、計画的な修繕を確実に行い、時代のニーズに適合させるように改良を実施していくことが必要になります。特に賃貸マンションの場合、目先の収支にとらわれ、計画的な修繕は後回しになり、何か事故がおきてから行う、事後保全になりがちな傾向があります。しかし、建物の維持保全を行う上で、事後保全より、予防保全の方がライフサイクルコストの面で比較するとより効率が高いと言われています。建物が古びて入居率が下がる前に適時修繕を行うことは、建物のためにも良いですし、入居率のアップにもつながると考えます。
【賃貸マンションのでの大規模修繕工事の流れ】
ステージ1 建物診断(建物の現状を調べる)
- 予備診断
設計図書や過去の修繕記録などの資料を閲覧し建物の基礎資料を把握します。その後目視にて建物の外観を五感で観察します。この時点でおおよその必要な修繕時期について判断がつきます。
また、入居者にアンケート調査を実施して、バルコニーまわりの劣化損傷状態、希望する建物付属施設の改良点やグレードアップの要望などの意見を聞き修繕内容の参考にします。 - 現地調査
通常行われる調査は、建物の全般にわたる目視調査、手の届く範囲での打診調査、また空室があれば実際に立ち入り調査を行います。
更に物性試験として塗膜の付着力試験、コンクリートの中性化深度調査、シーリング材の性能試験などを行います。外壁のタイルが過去に剥落した、又は浮きが多い場合などは更に詳しい調査が必要な場合もあります。
ステージ2 基本計画(どのような大規模修繕を実施するかを考える)
劣化診断に基づき工事範囲、工事仕様を立案し修繕工事の基本計画を立案して概算費用を算出します。
主な業務内容:
- 傷みの原因、必要となる工事内容概算費用などについての情報提供。
- 工事の優先順位について、オーナー意見を聞きながら調整。
- グレードアップの提案 防犯対策、バリアフリー化などの入居率の改善になるような方法についてアドバイス。など…
ステージ3 長期修繕計画・収支計画・資金計画の検討
基本計画に基づき今後の収支予測の作成や長期修繕計画の作成、見直しを行い、予算調整をします。
主な検討内容:
- 工事範囲をどの程度まで広げるか
- 今回の修繕はどの程度の期待耐用年数を見込んでいるか
- 次の修繕はいつ頃必要になるか
資金計画:
- 必要工事費の概算額
- 資金計画の内容(調達方法、支払い方法)
ステージ4 詳細設計(工事の際のバイブルを作ります)
詳細設計とは、材料、工法、寸法などを具体的に決定して行く作業です。施工会社選定の際に比較検討が可能となる見積書をとるため、また工事を円滑に進めるためにも、きちんとした設計図書の作成が重要です。
成果品は下記のようになります。
- 仕様書
- 設計図
- 見積要領書
- 見積書(金額抜きのもの)
※精算項目
設計段階では数量が確定できない項目については工事完了後に調整し支払います。例えば、ひび割れの長さ、鉄筋露出の箇所数、タイルの浮きの枚数については建物全体について現時点で正確に把握することは不可能です。見積依頼時には、現地調査時に判定可能な箇所を精密に調査し、全体の面積に掛けて算出した値で契約し、工事実施時に足場を組んだ時点で、詳細な数量を算出し、工事費を増減していくことが必要になります。大規模修繕工事ではとても重要な項目ですので、あいまいにしておくことは得策ではありません。
ステージ5 見積依頼・工事請負業者内定
- 見積もりを依頼する会社を選ぶ
- 説明会を開催し見積もりを依頼する
見積もりを依頼するために施工会社をマンションに呼び、現場説明会を開催します。工事概要や見積条件を記載した「見積要領書」と設計図書などを渡して設計内容を説明し、現場の状況を良く確認してもらいます。後日、施工会社は現地を確認し、見積内容に不明な点があればFAXにて質疑を提出してもらいます。 - 見積りの徴収・開封
見積書を開封し、工事仕様や数量が正しいか?見積項目に漏れがないか?見積単価に不当に高いもの又は、安いものがないか、工事保証の内容は正しいかなどをチェックします。 - 工事施工会社の決定
見積金額、現場代理人の経歴、会社の総合力などを吟味して施工会社を決定します。できれば面談を行い、現場代理人の資質、会社としての取り組み姿勢を総合的に吟味して決定します。
ステージ6 工事請負契約
工事請負契約:工事施工会社と請負契約を締結します。
工事請負契約書には見積り書、仕様書、質疑応答書、設計図面、工事請負約款などをとじ込み製本します。
ステージ7 入居者・近隣への工事説明会の開催(工事のお知らせ)
工事期間中は入居者の方の生活に不便が生じます。また、近隣にも迷惑がかかることもありますので、きめこまやかな対策を事前にとっておく必要があります。工事の内容によっては入居者の室内へ立ち入らないと工事ができない場合があります。工事中に生じる状況を想定して、入居者へ事前に説明しておくことが重要なことです。
考えられる工事中の生活への影響:
- 工事のために在宅が必要(玄関枠の塗装など…)
- 洗濯物が干せない(バルコニーの高圧洗浄や補修工事、塗装の際)
- エアコンが使えない(バルコニー防水時、室外機から水が流れでるため)
- 窓が開けられない(外壁塗装時)
- 廊下が通りにくい(廊下の床のシートを貼り替える場合)
- エレベーターが使えない(EVの扉の塗装時)
- 室内が暗い(足場にシートをはるため)
- 工事の音や振動(外壁タイルの補修やひび割れの補修時など)
ステージ8 大規模修繕工事の実施
工事中はオーナー、施工会社、工事監理者などが協力しあい工事をすすめて行くことが必要になります。工事の開始時は1週間に1回程度、工事が軌道に乗ってきたら2週間~3週間に1回程度は定例会議を開催して下記のような問題について解決して行きます。また、工事監理者は工事が仕様書に則り行われているかなどを定期的に(1週間に1回~2回程度の重点管理)検査し、不良個所があれば工事会社に是正指示をします。
工事中の主な問題:
- 音や臭いについての入居者からのクレーム
- 洗濯物干場(バルコニー)ついてのクレーム
- 駐車・駐輪スペースについてのクレーム
- 工事中の予測しない建物の瑕疵の発見
- 入居者が工事に協力してくれない など・・・
工事が完了したら・・・
工事が完了したら、竣工検査を実施して不具合などが確認された場合は直ちにその旨を施工会社に報告して、不具合箇所を是正させます。
今後の維持管理に生かす資料
工事が終了すると、工事の際に使った材料、補修箇所の図面、色番号、工事中の記録写真をまとめた竣工図書を受け取ります。今後の建物の維持管理に重要な書類になりますので大切に保管することが必要です。